【目次】
・「補完」と「右方」という視点
・なぜプロジェクト人材育成は「詰まりやすい」のか
・右方を見据えた「育成設計」の考え方
・現場でできる「小さな育成施策」いろいろ
・組織として押さえたい「右方育成」の仕組み
・育成が回らない現場での「ミニマム施策セット」
・まとめ
「補完」と「右方」という視点
この記事は「プロジェクト人材の育成」に関する補完として位置づけています。
すでに基本的な育成論(OJT、研修、ローテーションなど)は理解している前提で、
- 現場でありがちな行き詰まり
- それを解消するための“追加の視点”や“もう一歩深い工夫”
を整理するのが狙いです。
ここでいう「右方」は、プロジェクト計画のガントチャートなどで、時間軸が右に進むイメージから取り、
「いま目の前のタスクだけでなく、その先の中長期(右側)でどういう人材になってほしいか」
という将来像・育成ゴールを意識する、という意味で使います。
- 左方:いま・直近の仕事をどう回すか
- 右方:数か月〜数年後、その人にどんな役割を担ってほしいか
この右方を見据えた発想が抜け落ちると、「作業要員」は増えても「プロジェクト人材」は育たない、というのがこの記事の問題意識です。
なぜプロジェクト人材育成は「詰まりやすい」のか
まず、現場でよく聞く悩みを整理しておきます。
日々の案件対応で「育成の余裕」がない
- 納期が厳しい
- いつも火消し気味
- 教えるより、自分でやったほうが早い
結果として、
- 新人・若手は「指示待ち・作業担当」のまま
- PM候補に育つ前に、現場を去ってしまう
という悪循環が起きがちです。
育成が属人化していて、再現性がない
- 「あの人の下につくと育つけど、他のチームは…」
- 「教える内容も順番も、人によってバラバラ」
こうした状態では、組織としてプロジェクト人材を計画的に増やすことができません。
短期の成果に偏り、長期の育成が後回しになる
プロジェクトはどうしても短期成果で評価されやすい世界です。
- 今期の売上・利益
- 今月の進捗・遅延
- 今回の品質・障害
そのため、「育成」は
- 時間が余ったらやる
- トラブルが落ち着いたら考える
という“後ろ倒し前提”の活動になりがちです。
右方を見据えた「育成設計」の考え方
ここからが本題の「補完部分」です。
忙しい現場でも取り入れやすいよう、シンプルなフレームとしてまとめます。
ゴール像を一言で言語化する
まずは「右方」のゴールを、短い一文で定義します。
- 例)「2年後に、小〜中規模案件のサブPMを任せられる状態」
- 例)「1年後に、要件定義〜基本設計のファシリテーションをひと通り回せる」
ポイントは、
- 「できる作業」ではなく「担える役割」で書く
- 期限(目安)を入れる
- 書いたものを、本人と共有する
この一文が、育成のコンパスになります。
ゴールから逆算した「右方スキルマップ」を作る
次に、そのゴールに到達するまでに必要なスキル・経験を3段階くらいに分けて整理します。
例)「2年後にサブPMを任せる」場合:
- レベル1(〜半年)
- タスク管理ツールを使って自分のタスクを漏れなく管理できる
- 日次・週次の進捗を自分の言葉で報告できる
- レベル2(〜1年)
- 小さなWBS(数十タスク)を自分で引ける
- レビューを受けながら、チームの進捗一覧を作成できる
- レベル3(〜2年)
- ミニチーム(2〜3人)の進捗を取りまとめる
- 顧客定例の一部アジェンダを担当し、説明・質疑応答ができる
完璧なマップを作る必要はなく、「ざっくり3段階」程度が現場ではちょうど良いです。
スキルマップを「評価」ではなく「会話の道具」にする
スキルマップを作ると、すぐに「評価表」として使いたくなりますが、まずは
- 1on1や面談での会話の土台
- 日々のアサインを決めるときの参考
くらいにとどめると運用しやすくなります。
評価に直結させすぎると、
- チェックリスト埋めに意識が向く
- 「できない」が言いにくくなる
などの副作用も出やすいため、まずは“育成の地図”として軽く使うのがおすすめです。
現場でできる「小さな育成施策」いろいろ
ここからは、忙しい現場でも取り入れやすい具体的な打ち手をいくつか紹介します。
シャドーイング:PMの思考を見せる
PMやリーダーの仕事を「隣で見せる」時間を意図的につくります。
- 顧客定例に同席させる(発言しなくてよい)
- 進捗会議の準備(アジェンダや資料作り)を一緒にやる
- リスク・課題の棚卸しミーティングに参加させる
そのうえで、
- 「今の場面で、何を気にしていたか」
- 「なぜ、その判断をしたのか」
を5〜10分で言語化して伝えると、単なる同席が「学びの場」に変わります。
ミニPM経験:小さく任せて、きちんと振り返る
いきなり1本のプロジェクトを任せるのではなく、“ミニPM”の経験を重ねてもらいます。
- サブチーム(2〜3人)の進捗管理
- 1つのサブタスク群(画面×数枚、機能×1つなど)の品質・納期管理
- 顧客定例の一部アジェンダ進行を担当
重要なのは、
- 任せる前に期待値を伝える
- どこまで自分で決めてよいか
- どこからは相談してほしいか
- 終わったあとに必ず振り返る
- うまくいった点
- 困った点・今後の改善ポイント
この振り返りをサボると、「ただ大変な経験をさせただけ」で終わってしまいます。
右方を意識した育成では、「経験」+「意味づけ」がセットです。
プチふりかえりを、週1の習慣にする
大げさなKPTやふりかえり会を開かなくても、週1の5〜10分の対話だけでも効果があります。
たとえば、次の3点だけを毎週聞いてみます。
- 今週、うまくできたと感じたことは?
- 今週、難しかった/モヤモヤしたことは?
- 来週、1つだけ変えるとしたら何を変す?
これを繰り返すことで、
- 本人が自分の成長に気づきやすくなる
- 課題が早めに共有される
- 「右方のゴール」に向けた軌道修正がしやすくなる
という効果が期待できます。
組織として押さえたい「右方育成」の仕組み
個々のPMの頑張りだけに依存すると、育成が属人化しやすいという問題が残ります。
組織として最低限押さえておきたいポイントも整理しておきます。
育成方針を、組織として言語化する
- 「うちの会社にとっての“PM人材”とは?」
- 「どんな行動ができる人を、PM候補とみなすのか?」
といった定義を簡単な一枚の資料にしておくだけでも、
- 上司ごとに基準がバラバラ
- 人によって“育てられ方”が全然違う
といったブレを抑えることができます。
評価・アサインと、育成をゆるやかにつなぐ
右方を見据えた育成を機能させるには、
- 「評価」
- 「アサイン(配属・担当案件)」
- 「育成計画」
が、まったく別々に運用されないようにすることが重要です。
たとえば、
- 半期の評価面談で、「次の半期でどのレベルを目指すか」を合意する
- 案件アサイン時に、その人の「右方ゴール」が考慮されるようにする
- 育成で頑張った点(ミニPM経験など)が、評価の一部としてちゃんと語られる
といった仕組みがあると、現場のPMも「育成をやる意味」を感じやすくなります。
育成の“見える化”をし過ぎない
一方で、なんでもかんでも可視化・数値化しようとすると、
- 記録作業が増えすぎて運用が止まる
- 「点数を上げるための育成ごっこ」になってしまう
といったリスクもあります。
最初は、
- スキルマップはざっくり3レベル
- 記録は1on1のメモ程度
- 報告も四半期に1回の共有会程度
など、“軽く始める”くらいがちょうどよいです。
育成が回らない現場での「ミニマム施策セット」
「ここまで読んだけど、うちの現場はそんな余裕ない…」という方のために、
“これだけはやってみてほしい”ミニマムセットをまとめます。
- ゴールを一文で書いて、本人と共有する
- 「1年後に○○ができるようになってほしい」
- 月1回、ミニPM経験を用意する
- 小さな進捗取りまとめ、レビュー進行など
- 週1回、5分のふりかえり対話をする
- うまくいったこと/困ったこと/来週変える1つ
これだけでも、
- 本人の意識が「作業」から「役割」へ少しずつシフトする
- PMとメンバーの間で、育成に関する共通認識ができる
という変化が生まれます。
まとめ
最後に、この記事のポイントを整理します。
- プロジェクト人材の育成は、日々の案件対応の忙しさの中で後回しになりがち
- 「右方=中長期のゴール」を一文で定義し、そこから逆算したシンプルなスキルマップを作ることで、育成の方向性がぶれにくくなる
- 現場でできる小さな施策として、
- シャドーイングでPMの思考を見せる
- ミニPM経験を計画的に提供する
- 週1回のプチふりかえりを習慣化する
といった取り組みが有効
- 組織としては、
- プロジェクト人材像の言語化
- 評価・アサインと育成のゆるやかな連携
- 過度な“見える化”を避け、軽く始める
といった仕組みづくりが鍵になる
- 育成が回らない現場でも、
「ゴール一文」+「月1ミニPM」+「週1ふりかえり」というミニマムセットなら、今日から始められる
プロジェクト人材の育成は、「特別な研修」を用意しないと進まないものではありません。
日々の案件の中に、どれだけ“右方”を意識した小さな学びの場を埋め込めるかが勝負です。
まずは、今一緒に仕事をしているメンバー1人を思い浮かべて、
「この人に1年後、どんな役割を任せたいか」を一文で書き出してみてください。
そこから、あなたの現場の「右方育成」がスタートします。

