なぜ「メンタリング」と「OJT」は設計が必要なのか

若手PMを育てるとき、現場でよく起きる失敗は「誰が・何を・どこまで・いつ教えるか」が曖昧なまま走り出してしまうことです。結果として、

  • 教える人によって内容がバラバラ
  • 若手が“何をできれば一人前か”分からない
  • 忙しさで育成が後回しになる

といった状態になり、育成が継続できなくなります。

そこで有効なのが、メンタリング(対話で支える)OJT(業務で鍛える)をセットで設計し、「育成をプロセス化」することです。
メンタリングは思考整理・内省・意思決定を支え、OJTは実務でスキルを積み上げます。この2つを役割分担させると、育成が安定します。

まず決めるべき「育成のゴール」と到達基準

設計の出発点は、いきなり面談やOJT計画を作ることではありません。最初に決めるのは育成のゴールです。

ゴール設定の例(若手PM向け)

ゴールは「ふんわり」ではなく、観察できる行動で定義します。

  • 計画:WBSを作り、前提・制約・リスクを言語化できる
  • 進捗管理:遅延兆候を早期に掴み、打ち手を提案できる
  • 課題管理:課題を起票し、優先度と期限を運用できる
  • 合意形成:関係者に説明し、意思決定を引き出せる
  • コミュニケーション:週次報告で状況を簡潔に伝えられる

レベル分け(例:3段階)

  • Lv1:補助付きでできる(テンプレート・レビュー前提)
  • Lv2:単独で回せる(通常ケースは自己完結)
  • Lv3:改善して強くできる(仕組み化・再発防止までできる)

この「到達基準」があると、教える側の迷いが減り、若手側も安心して成長できます。

メンタリング設計の基本:目的・頻度・型を決める

メンタリングは「悩み相談」だけではなく、若手PMの成長を加速させる場です。設計のポイントは3つです。

メンタリングの目的を明確にする

目的を混ぜると、面談が雑談化しやすいです。おすすめは以下の3目的を明確に分けること。

  1. 内省支援:出来事を振り返り、学びに変える
  2. 意思決定支援:迷いを整理し、選択肢を比較する
  3. 行動設計:次の1週間の具体アクションを決める

頻度と時間(現実的な落とし所)

  • 週1回 30分(立ち上がり期:1〜2か月)
  • 隔週 45分(安定期:3〜6か月)
  • 月1回 60分(自走期:以降)

「最初は短く高頻度、慣れたら間隔を空ける」が続きやすいです。

面談の型(テンプレ化が強い)

毎回の進め方を固定すると、質が安定します。

  • ①近況(5分):今週の出来事・気になる点
  • ②事実整理(10分):何が起きた?自分は何をした?
  • ③解釈と学び(10分):なぜそうなった?次に活かすなら?
  • ④次アクション(5分):来週やることを1〜3個に絞る

ポイントは、メンターが答えを“与えすぎない”こと。若手の思考を引き出す質問の方が、長期的に効きます。

OJT設計の基本:業務を「育成課題」に分解する

OJTは「横で見せて、やらせて、直す」だけだと、育成が属人化しがちです。設計では、業務を育成の視点で分解します。

OJTは“タスク”ではなく“能力”に紐づける

例)週次進捗会を担当させる場合

  • タスク:進捗会の司会
  • 育成能力:状況把握、論点整理、意思決定の促進、合意形成

能力に紐づけると、同じタスクでも「何を見て育てるか」が明確になります。

難易度の階段を作る(安全な成長ルート)

いきなり難しい役割を渡すと失敗体験が増えます。段階的に任せます。

  • Step1:資料作成補助(テンプレに沿って作る)
  • Step2:一部担当(議事録、課題表、リスク表など)
  • Step3:小さな会議の運営(レビュー会など)
  • Step4:サブPMとして一連を回す
  • Step5:PMとして主担当(メンターは監督役)

メンタリング×OJTをつなぐ「育成サイクル」

効果が出る設計は、メンタリングとOJTを別物にしません。おすすめの接続はこの形です。

  • OJTで経験する(実務)
  • メンタリングで振り返る(内省・学び化)
  • 次のOJT課題を決める(行動設計)
  • また実務で試す

このループが回ると、若手の成長速度が上がり、教える側の負担も下がります。

役割分担を決める:メンター/OJT指導者/上長

育成が止まる原因の1つが「責任の所在が曖昧」なことです。役割は最初に決めましょう。

  • メンター:思考支援、内省、意思決定支援(評価者になりすぎない)
  • OJT指導者:業務のやり方、成果物レビュー、品質の担保
  • 上長(育成責任者):育成の優先度を守る、アサイン調整、評価と配置

同一人物が全部やると強い一方で、忙しいと破綻しやすいです。現実に合わせて分担します。

具体テンプレート例:すぐ使える設計パーツ

運用を楽にするために、最低限この3つを用意すると強いです。

育成目標シート
  • 目標スキル(例:課題管理)
  • 到達基準(Lv1〜3)
  • 今月の重点(1〜2個)
  • 具体アクション(週次で更新)
OJT課題一覧
  • 任せる業務
  • 育成したい能力
  • 難易度(Step1〜5)
  • レビュー観点(品質チェックポイント)
メンタリング議事メモ
  • 今週の出来事
  • うまくいったこと/詰まったこと
  • 原因の仮説
  • 次の一歩(1〜3個)

うまくいかない時の典型パターンと対策

「忙しくて育成が飛ぶ」

対策:固定枠化(カレンダー優先)30分短縮で継続を優先。

「若手が受け身になる」

対策:面談の最後に「次回までの宿題」を1つだけ設定。小さく確実に。

「指導が細かすぎて自走しない」

対策:レビューは“指摘”だけで終わらせず、判断基準(観点)を渡す。

「メンターが答えを言ってしまう」

対策:質問を増やす。「他の選択肢は?」「失敗するとしたら何が起きる?」など。

成果を測る:育成KPIの置き方(現場向け)

育成は数値化しづらいですが、追い風になる指標は作れます。

  • 成果物レビューの手戻り回数(減っているか)
  • 課題の初動速度(起票までの時間)
  • 会議での論点提示回数(受け身→主体へ)
  • リスクの先出し件数(後追いから脱却)
  • 自己振り返りの質(学びが言語化できるか)

「評価」ではなく「成長観測」に使うのがポイントです。

まとめ

若手PM育成のメンタリング・OJTは、気合いではなく設計で回すと成功確率が上がります。最初に育成ゴールと到達基準を決め、メンタリングは“対話の型”を用意して継続し、OJTは難易度の階段を作って安全に任せましょう。さらに、OJTの経験をメンタリングで学びに変え、次の行動へつなぐ「育成サイクル」を回すことで、若手は自走に近づき、組織としても育成が再現可能になります。