若手PM育成のメンタリング・OJTの運用を設計するときの実践ガイド
【目次】
・なぜ「メンタリング」と「OJT」は設計が必要なのか
・まず決めるべき「育成のゴール」と到達基準
・メンタリング設計の基本:目的・頻度・型を決める
・OJT設計の基本:業務を「育成課題」に分解する
・メンタリング×OJTをつなぐ「育成サイクル」
・役割分担を決める:メンター/OJT指導者/上長
・具体テンプレート例:すぐ使える設計パーツ
・うまくいかない時の典型パターンと対策
・成果を測る:育成KPIの置き方(現場向け)
・まとめ
なぜ「メンタリング」と「OJT」は設計が必要なのか
若手PMを育てるとき、現場でよく起きる失敗は「誰が・何を・どこまで・いつ教えるか」が曖昧なまま走り出してしまうことです。結果として、
- 教える人によって内容がバラバラ
- 若手が“何をできれば一人前か”分からない
- 忙しさで育成が後回しになる
といった状態になり、育成が継続できなくなります。
そこで有効なのが、メンタリング(対話で支える)とOJT(業務で鍛える)をセットで設計し、「育成をプロセス化」することです。
メンタリングは思考整理・内省・意思決定を支え、OJTは実務でスキルを積み上げます。この2つを役割分担させると、育成が安定します。
まず決めるべき「育成のゴール」と到達基準
設計の出発点は、いきなり面談やOJT計画を作ることではありません。最初に決めるのは育成のゴールです。
ゴール設定の例(若手PM向け)
ゴールは「ふんわり」ではなく、観察できる行動で定義します。
- 計画:WBSを作り、前提・制約・リスクを言語化できる
- 進捗管理:遅延兆候を早期に掴み、打ち手を提案できる
- 課題管理:課題を起票し、優先度と期限を運用できる
- 合意形成:関係者に説明し、意思決定を引き出せる
- コミュニケーション:週次報告で状況を簡潔に伝えられる
レベル分け(例:3段階)
- Lv1:補助付きでできる(テンプレート・レビュー前提)
- Lv2:単独で回せる(通常ケースは自己完結)
- Lv3:改善して強くできる(仕組み化・再発防止までできる)
この「到達基準」があると、教える側の迷いが減り、若手側も安心して成長できます。
メンタリング設計の基本:目的・頻度・型を決める
メンタリングは「悩み相談」だけではなく、若手PMの成長を加速させる場です。設計のポイントは3つです。
メンタリングの目的を明確にする
目的を混ぜると、面談が雑談化しやすいです。おすすめは以下の3目的を明確に分けること。
- 内省支援:出来事を振り返り、学びに変える
- 意思決定支援:迷いを整理し、選択肢を比較する
- 行動設計:次の1週間の具体アクションを決める
頻度と時間(現実的な落とし所)
- 週1回 30分(立ち上がり期:1〜2か月)
- 隔週 45分(安定期:3〜6か月)
- 月1回 60分(自走期:以降)
「最初は短く高頻度、慣れたら間隔を空ける」が続きやすいです。
面談の型(テンプレ化が強い)
毎回の進め方を固定すると、質が安定します。
- ①近況(5分):今週の出来事・気になる点
- ②事実整理(10分):何が起きた?自分は何をした?
- ③解釈と学び(10分):なぜそうなった?次に活かすなら?
- ④次アクション(5分):来週やることを1〜3個に絞る
ポイントは、メンターが答えを“与えすぎない”こと。若手の思考を引き出す質問の方が、長期的に効きます。
OJT設計の基本:業務を「育成課題」に分解する
OJTは「横で見せて、やらせて、直す」だけだと、育成が属人化しがちです。設計では、業務を育成の視点で分解します。
OJTは“タスク”ではなく“能力”に紐づける
例)週次進捗会を担当させる場合
- タスク:進捗会の司会
- 育成能力:状況把握、論点整理、意思決定の促進、合意形成
能力に紐づけると、同じタスクでも「何を見て育てるか」が明確になります。
難易度の階段を作る(安全な成長ルート)
いきなり難しい役割を渡すと失敗体験が増えます。段階的に任せます。
- Step1:資料作成補助(テンプレに沿って作る)
- Step2:一部担当(議事録、課題表、リスク表など)
- Step3:小さな会議の運営(レビュー会など)
- Step4:サブPMとして一連を回す
- Step5:PMとして主担当(メンターは監督役)
メンタリング×OJTをつなぐ「育成サイクル」
効果が出る設計は、メンタリングとOJTを別物にしません。おすすめの接続はこの形です。
- OJTで経験する(実務)
- メンタリングで振り返る(内省・学び化)
- 次のOJT課題を決める(行動設計)
- また実務で試す
このループが回ると、若手の成長速度が上がり、教える側の負担も下がります。
役割分担を決める:メンター/OJT指導者/上長
育成が止まる原因の1つが「責任の所在が曖昧」なことです。役割は最初に決めましょう。
- メンター:思考支援、内省、意思決定支援(評価者になりすぎない)
- OJT指導者:業務のやり方、成果物レビュー、品質の担保
- 上長(育成責任者):育成の優先度を守る、アサイン調整、評価と配置
同一人物が全部やると強い一方で、忙しいと破綻しやすいです。現実に合わせて分担します。
具体テンプレート例:すぐ使える設計パーツ
運用を楽にするために、最低限この3つを用意すると強いです。
育成目標シート
- 目標スキル(例:課題管理)
- 到達基準(Lv1〜3)
- 今月の重点(1〜2個)
- 具体アクション(週次で更新)
OJT課題一覧
- 任せる業務
- 育成したい能力
- 難易度(Step1〜5)
- レビュー観点(品質チェックポイント)
メンタリング議事メモ
- 今週の出来事
- うまくいったこと/詰まったこと
- 原因の仮説
- 次の一歩(1〜3個)
うまくいかない時の典型パターンと対策
「忙しくて育成が飛ぶ」
対策:固定枠化(カレンダー優先)+30分短縮で継続を優先。
「若手が受け身になる」
対策:面談の最後に「次回までの宿題」を1つだけ設定。小さく確実に。
「指導が細かすぎて自走しない」
対策:レビューは“指摘”だけで終わらせず、判断基準(観点)を渡す。
「メンターが答えを言ってしまう」
対策:質問を増やす。「他の選択肢は?」「失敗するとしたら何が起きる?」など。
成果を測る:育成KPIの置き方(現場向け)
育成は数値化しづらいですが、追い風になる指標は作れます。
- 成果物レビューの手戻り回数(減っているか)
- 課題の初動速度(起票までの時間)
- 会議での論点提示回数(受け身→主体へ)
- リスクの先出し件数(後追いから脱却)
- 自己振り返りの質(学びが言語化できるか)
「評価」ではなく「成長観測」に使うのがポイントです。
まとめ
若手PM育成のメンタリング・OJTは、気合いではなく設計で回すと成功確率が上がります。最初に育成ゴールと到達基準を決め、メンタリングは“対話の型”を用意して継続し、OJTは難易度の階段を作って安全に任せましょう。さらに、OJTの経験をメンタリングで学びに変え、次の行動へつなぐ「育成サイクル」を回すことで、若手は自走に近づき、組織としても育成が再現可能になります。

