なぜ「バグ雪崩」が起きるのか

テスト工程でバグが一気に噴き出す状態は、珍しいことではありません。原因はだいたい次のどれか(または複合)です。

  • テスト開始が遅れ、最後に不具合が集中した
  • 結合度の高い箇所(共通部品、基盤、IF)が壊れて連鎖した
  • 変更量が多いのに影響範囲が把握できていない
  • テスト観点が不足していて、後から検出が増えた
  • 環境差分(設定、データ、外部連携)で再現性が揺れている

この状況で怖いのは、チームが「目の前に出た順に直す」モードに入ってしまうことです。すると、重要な不具合が後回しになったり、同じ原因のバグを個別に直して工数が溶けたり、直したのに再発したりします。
だからこそ必要なのが、切り分け(原因領域の絞り込み)と、優先度付け(直す順番の合意)です。

まずやること:全体を止血する初動

雪崩が起きた直後は、まず「混乱を止める」ことが優先です。ここでのゴールは、チーム全体が同じルールで動ける状態を作ることです。

受付ルールを決める(増え方を制御する)

  • バグ登録の必須項目を固定する(後述)
  • 重複疑いは「疑い」のままでも登録し、トリアージ※で統合する
  • 「再現しない」「情報不足」は即修正に入らず、調査枠へ回す

※トリアージ:限られた資源で最大限の効果を出すため、重症度に応じて対処の優先順位を決めること

“火消しモード”の宣言

PM/品質リーダーが明確に言語化します。例えば以下です。

  • 今日は「修正量を増やす日」ではなく「重要不具合を潰す日」
  • 着手順は個人判断ではなく、トリアージの優先度に従う
  • 未確定の仕様/環境問題は別枠で切り分け、開発に投げない

一時的なフリーズも選択肢

不具合が増え続ける時、開発がさらに変更を入れると混乱が増幅します。

  • 新規機能の投入を止め、バグ修正専念に切り替える
  • 外部要因(環境・データ・仕様未確定)が原因なら、そこを先に固定する

「フリーズ=悪」ではなく、火災時の避難誘導のようなものです。

切り分けの基本:情報を揃えて分類する

切り分けの目的は「原因を当てる」ことではありません。最初の段階では、原因領域を狭めて、同じ系統の不具合を束ねることが狙いです。

バグ票に必須の情報(最低限)

初心者でも迷わないよう、必須項目を明確にします。

  • 期待結果 / 実結果(スクショ・ログがあれば添付)
  • 再現手順(最短手順)
  • 再現率(毎回 / たまに / 1回だけ)
  • 発生環境(端末、OS、ブラウザ、設定、DB、外部連携先など)
  • 発生箇所(画面/機能/IF名、対象データIDなど)
  • 発生タイミング(どのテストケース、どのビルド)
  • 直近の変更点(リリース番号、関連チケット、コミットなど)

これが揃うだけで、調査時間が一段減ります。

最初にやる分類(5つ)

雪崩時は「粒度を揃えて分類」すると早いです。

  1. 重複(同じ事象)
  2. 派生(同じ原因で別症状が出ている)
  3. 環境/データ起因(設定、マスタ不足、外部サービス不安定)
  4. 仕様起因(仕様が曖昧・想定が違う)
  5. 実装不具合(純粋なバグ)

ポイントは、分類は暫定でOKにすること。完璧に分けようとすると時間が溶けます。

早く絞り込むコツ:再現・範囲・変更点・環境

切り分けを速くするための「質問の順番」を決めておくと、チームが同じ動きをします。

再現性を最優先で確保する

再現しないものは直せません。だから雪崩時は特に、こう分けます。

  • 再現する:修正・原因調査に進める
  • 情報不足:追加情報待ち(テスト担当へ返す)
  • 再現しない:環境/手順/データの確認へ回す

再現性が低いものは、ログ追加などの「観測可能化」を先にする方が速いことも多いです。

影響範囲を切る(どこまで壊れている?)

  • 特定ユーザーだけ?特定データだけ?全ユーザー?
  • 特定画面だけ?共通部品(認証、検索、一覧、帳票)?
  • 特定連携先だけ?複数連携が巻き込まれている?

影響範囲が広いほど優先度が上がりやすいため、切り分けと優先度付けが連動します。

「直近変更点」に寄せる

雪崩は、変更に引っ張られて起きることが多いです。

  • 直近リリースで変えた領域
  • 共通ライブラリ更新
  • 設定変更、インフラ設定、バッチの変更

「変更点一覧」を短くてもいいので作り、バグ群と結びつけると、同根の不具合を束ねやすくなります。

環境差分を固定する

環境差分があると、再現性が揺れて原因が見えなくなります。

  • テスト環境の構成(バージョン、設定、接続先)を固定
  • テストデータセットを固定(共通ID、マスタ、状態)
  • 外部連携はスタブ/固定レスポンスも検討

「環境の揺れ」を止めるのは、雪崩時の最短ルートです。

優先度付けの型:致命度×影響×緊急度

優先度付けは感情論になりがちです。だから、判断軸を先に合意し、個別のバグに当てはめます。

3軸で考える

おすすめはこの3つです。

  • 致命度(Severity):システムとしてどれだけ致命的か
  • 影響(Impact):影響ユーザー数、業務影響、金額影響
  • 緊急度(Urgency):リリース日・工程・外部都合からの緊急性

この3軸があると、「重要そう」ではなく「なぜ重要か」を説明できます。

例:致命度の基準(わかりやすい版)

  • S1:サービス停止、データ破壊、セキュリティ重大、決済不可
  • S2:主要業務が完了できない、回避策なし
  • S3:回避策あり、限定的な業務影響
  • S4:UI崩れ、文言、軽微な不具合

※組織の事情に合わせて定義は調整してOKです。大事なのは全員が同じ基準で見ること。

優先度(P1〜)に落とす

  • P1:今すぐ対応(S1相当、またはS2で影響大&回避策なし)
  • P2:今スプリント/リリースまでに対応
  • P3:できれば対応、難しければ次へ送る
  • P4:今回は見送り(既知の軽微、改善枠へ)

雪崩時は「全部P1」にしたくなりますが、それをやると全部遅れます。
P1は本当に絞り、P3/P4を作る勇気が必要です。

“同根バグ”は束ねて優先度を上げる

同じ原因で10件出ているなら、1件ずつ直すのではなく、原因を潰すチケットを上位に置きます。

  • 「検索結果が壊れる」×多数 → 共通ロジックやSQL生成の根を疑う
  • 「ログイン後に落ちる」×多数 → 認証/セッション周りを最優先

バグ雪崩の攻略は、束ねて、根を叩くです。

対応の進め方:トリアージ会議と担当の割り振り

優先度が決まっても、運用が崩れると意味がありません。雪崩時は「短いサイクル」で回します。

トリアージ会議(15〜30分)の型

頻度は状況次第ですが、雪崩時は1日1〜2回でも効果があります。議題は固定します。

  1. 新規バグの分類(重複/派生/環境/仕様/実装)
  2. P1/P2の確定
  3. ブロッカー(再現不可、環境問題、仕様未確定)の解消担当決定
  4. “同根候補”の束ね・原因調査チケット作成
  5. 本日の狙い(P1を何件潰すか、何を固定するか)

役割を分けると速い

雪崩時に全員が全員同じことをすると混乱します。

  • トリアージ担当:分類・優先度・重複統合
  • 再現担当:再現手順を詰める、ログ・証跡集め
  • 原因調査担当:同根候補の根を掘る
  • 修正担当:P1/P2を潰す
  • 環境/仕様窓口:環境差分・仕様解釈を固定する

PMはここで「割り込みを吸収し、ルールを守らせる」役です。

WIP(仕掛かり)を制限する

バグが多い時ほど、並列で手を出すと終わりません。

  • 個人の同時着手数を制限(例:1〜2件まで)
  • “調査中”を増やしすぎない
  • 修正→レビュー→再テストを流れるようにする

仕掛かりを絞るだけで、クローズ数が上がることは多いです。

現場が崩れない運用:見える化・ルール・品質ゲート

雪崩状態でも、チームが消耗しすぎないように運用を整えます。

見える化する項目(最低限)

  • オープン件数(P別)
  • 1日クローズ数
  • “再現不可/情報不足”件数
  • 同根候補の数(根チケットの進捗)
  • ブロッカー(環境・仕様)の一覧

数字が見えると、議論が「感覚」から「状況」になります。

バグ票の品質ゲート

  • 必須項目が埋まっていないものは「受付しない」
  • 再現手順が曖昧なら「再現担当」に返す
  • 仕様の曖昧さは「仕様課題」として別チケット化する

これを徹底すると、開発が調査に溺れにくくなります。

「修正したのに増える」を止める

雪崩時は修正がさらにバグを生みがちです。

  • 影響範囲が広い修正はレビュー強化
  • 回帰テストの観点を明確化(どこを再確認するか)
  • ロールバック方針(戻せる状態)を持つ

P1を直したつもりで新たなP1を増やさないように遵守します。

まとめ

テスト工程でバグが雪崩のように出たときに重要なのは、「全部を頑張って直す」ことではなく、切り分けと優先度付けの型で、チームの動きを揃えることです。
まずは初動で受付ルールと火消しモードを宣言し、バグ票の情報を揃えて分類します。そのうえで、致命度×影響×緊急度の軸でP1を絞り、同根の不具合は束ねて根を叩きます。トリアージ会議と役割分担、WIP制限、見える化を回せば、雪崩は「制御された作業」に変わります。
混乱を“仕組み”で落ち着かせることが、PMの最大の価値です。