会議が増えるほど決められない“あるある”

プロジェクトで困りやすいのが、「会議はいっぱいあるのに、なぜか何も決まらない」状態です。マネジメント初学者の方ほど、会議を増やして情報共有を厚くすれば安心…と思いがちですが、実際は逆に“決める力”が薄まっていきます。

典型的な症状は次の通りです。

  • 同じ議題が別の会議で何度も再掲される(定例→ステコミ→定例…の無限ループ)
  • “相談”と“決裁”が混ざる(誰が決めるのか不明で保留)
  • 変更の判断が属人化する(声が大きい人の意見で決まる)
  • 会議ごとのアウトプットが曖昧(議事録はあるが、次のアクションが動かない)

原因はシンプルで、「会議体ごとの役割分担」が曖昧だからです。
会議の設計で重要なのは、議事録の綺麗さでも参加者の多さでもなく、“何をどこで決めるか”を固定すること。ここが決まると、会議は急に軽くなります。

まず押さえる:会議体設計の3原則

ステコミ、CCB、定例を設計するときは、難しいフレームワークよりも先に、以下の3つを必ず決めます。

原則1:何を決める会議か(決裁対象を定義)

会議は「話す場」ではなく「決める場」です。
だから最初に、会議ごとの決裁対象を定義します。

  • 方針を決めるのか(例:スコープ、優先度、予算、重要リスクへの対応)
  • 変更を決めるのか(例:仕様変更、納期変更、追加要望の採否)
  • 実務を前に進めるのか(例:課題解消、依存関係の調整、次週計画)

原則2:どこで決めるか(会議間の“エスカレーション線”)

同じテーマでも、レベルによって決める会議が変わります。
ここを曖昧にすると、「結局どの会議で決まるの?」が起きます。

  • 定例で解決できるなら定例で閉じる
  • 変更の採否はCCBに集約する
  • 経営判断やトレードオフはステコミへ上げる

原則3:誰が決めるか(責任者を1人に固定)

会議で決めるためには、最終的にYES/NOを言える人が必要です。
よくある失敗は「参加者全員で合意してから…」で、永遠に合意できないパターン。

そこで使いやすいのがRACIです。

  • A(Accountable)最終責任者:決定者(1人に固定)
  • R(Responsible)実行責任者:進める人(複数可)
  • C(Consulted)相談先:意見をもらう人
  • I(Informed)報告先:知らせる相手

会議体ごとに「Aは誰か」を固定するだけで、決定スピードが上がります。

ステアリングコミッティの役割:方針と経営判断

ステコミは一言でいうと、プロジェクトの“舵取り(ステアリング)”の意思決定をする場です。
現場の細かい課題を処理する場ではありません。

ステコミで決めること(決裁対象の例)

  • プロジェクトの目的・成功基準(何をもって成功か)
  • スコープの大きな変更(追加・削減の方針)
  • 優先順位のトレードオフ(品質・コスト・納期の意思決定)
  • 予算/体制/外部調達などの経営判断
  • 重大リスクへの対応(例:リリース延期判断、段階リリース方針)
  • 組織を跨ぐ調整(部門間の利害、意思統一)

ステコミに持ち込むべき論点(持ち込み条件)

定例で揉めている議題を、そのままステコミに持ち込むと混乱します。
ステコミに上げるときは、次の条件を満たす形にします。

  • すでに現場で選択肢が2〜3個に絞られている
  • それぞれのメリデメ(影響範囲、費用、納期、品質、リスク)が整理されている
  • 「決めてほしいこと」が一文で言える(例:A案で進めてよいか)

ステコミのアウトプット

  • 決定事項(方針・承認・却下)
  • 条件付き承認の条件(例:追加予算上限、適用範囲、期限)
  • 次回までの宿題(Aに紐づくアクション)

CCB(変更管理委員会)の役割:変更を裁く“関門”

CCBは Change Control Board
役割は明確で、変更要求を“採択するか否か”決める関門です。

プロジェクトは、放っておくと必ず変更が流れ込みます。
CCBがないと、変更が静かに積み上がり、納期・品質・コストが壊れます。

CCBで決めること(決裁対象の例)

  • 仕様変更の採否(やる/やらない)
  • 変更の優先順位(どれから入れるか)
  • 変更に伴う計画修正(工数、納期、体制、品質計画)
  • 変更の適用範囲(今回リリースに入れる/次回に回す)
  • 代替案の選定(簡易対応、暫定回避、運用で吸収)

CCBの前提:変更票(Change Request)がない変更は審議しない

CCBが機能しない最大の原因は「口頭変更」です。
必ず、最低限この情報をセットにします。

  • 変更内容(何をどう変えるか)
  • 変更理由(なぜ必要か)
  • 影響(工数・費用・納期・品質・他機能・運用)
  • 代替案(やらない場合の影響、簡易案)
  • 希望期限(ビジネス都合)
  • 推奨案(提案者の結論)

CCBのアウトプット

  • 承認/却下/保留(保留条件を明確に)
  • 優先度と実施タイミング(今回/次回/バックログ)
  • 計画反映指示(WBS・スケジュール・見積更新)
  • 関係者への通知範囲(顧客、運用、テスト、教育)

定例会議の役割:進捗を前に進める実務の場

定例は、プロジェクト実務を前に進めるための会議です。
ここで大事なのは「共有」より「前進」。
“聞いて終わり”の定例は、時間だけ消費します。

定例で決めること(決裁対象の例)

  • 進捗状況の確認と、遅延への手当て
  • 課題の担当・期限の決定(誰がいつまでに)
  • 依存関係の調整(他チーム待ちをどう崩すか)
  • 次週計画・優先度の微調整(ステコミ級は除く)
  • リスクの早期検知(重大化しそうならエスカレーション)

定例で“決めない”こと

  • 大規模スコープの変更(→ステコミへ)
  • 仕様変更の採否(→CCBへ)
  • 部門間の利害調整が必要な政治案件(→ステコミへ)

定例で無理に決めようとすると、決めたつもりの“仮決め”が増え、後でひっくり返ります。

定例のアウトプット

  • 主要論点の結論(決めた/上げる/保留)
  • ToDo(担当・期限・成果物)
  • エスカレーション事項(どの会議に何を上げるか)

3会議のすみ分け早見表

ここが記事の中心です。迷ったらこの表に戻る、という形で運用するとよいです。

  • ステコミ:方向性と経営判断(目的・優先度・予算・重大リスク)
  • CCB:変更の採否(仕様変更・計画変更の関門)
  • 定例:日々の前進(進捗・課題・調整・次アクション)

判断のコツ:その決定は“戻せるか?”

  • 戻せる/影響が局所 → 定例
  • 戻せるが、変更が積み上がると危険 → CCB
  • 戻せない/全体の方向に影響 → ステコミ

うまく回す運用ルール

会議体は作って終わりではなく、運用ルールで決まります。おすすめの最低限ルールをまとめます。

ルール1:議題は「共有」と「意思決定」に分ける

議題タイトルにタグを付けるだけで会議が締まります。

  • 【決裁】~を承認してほしい
  • 【相談】~について選択肢A/Bの意見がほしい
  • 【共有】~の状況報告(※共有は原則、資料で読める形に)

会議時間は「決裁」と「相談」に使い、「共有」は資料で短縮します。

ルール2:決裁議題は“結論ファーストの1枚”を必須にする

決裁者が判断できない資料は、会議を長引かせます。
1枚に入れるべきはこの6点です。

  1. 決めたいこと(YES/NO)
  2. 背景
  3. 選択肢(2〜3)
  4. 比較(コスト・納期・品質・リスク)
  5. 推奨案
  6. 決めない場合の影響

ルール3:承認の定義(何をもって承認か)を固定する

  • 承認=議事録に残した時点で確定
  • 条件付き承認=条件が満たされたら自動で確定(再審議しない)
  • 保留=次回の判断材料が揃うまで決めない(宿題を定義)

ルール4:例外ルート(緊急変更)を決めておく

障害対応や法令対応など、CCBを待てないケースもあります。
その場合は「緊急承認ルート」を事前に定義します。

  • 緊急承認の条件(例:サービス停止、法令違反、重大セキュリティ)
  • 代替承認者(A不在時の代理)
  • 事後にCCBへ報告し、記録と計画反映を必ず行う

“緊急だから”でルールを破るのではなく、緊急用のルールを用意します。

よくある失敗と立て直し方

失敗1:ステコミが課題消化会議になる

症状:課題一覧の読み上げで時間切れ。
立て直し:ステコミの議題を「方針・トレードオフ・重大リスク」に限定。課題は定例に戻し、ステコミには「支援が必要な課題」だけ上げる。

失敗2:CCBが形骸化して“口頭変更”が横行

症状:「ついでにこれも」からスコープ膨張。
立て直し:変更票がないものは受けない運用に戻す。テンプレを軽量化し、提出障壁を下げる(ただし必要情報は削らない)。

失敗3:定例が“共有会”になって前進しない

症状:報告で終わり、決めるべきことが残る。
立て直し:定例の議題を「論点→結論→ToDo」に固定。共有は事前配布の資料に寄せ、会議では論点処理だけする。

すぐ使えるテンプレ例

ここでは、記事内でそのままコピペできる形で例を示します。

9-1. 議題テンプレ(会議共通)

  • 議題名:【決裁/相談/共有】○○
  • 決めたいこと(結論):
  • 背景:
  • 選択肢:A / B / C
  • 影響(コスト・納期・品質・リスク):
  • 推奨案:
  • 参加依頼(A/R/C/I):

9-2. 変更票テンプレ(CCB用)

  • 変更ID:
  • 変更内容:
  • 変更理由:
  • 影響範囲(機能・画面・運用・テスト):
  • 工数・費用見積:
  • 納期影響:
  • 品質影響・リスク:
  • 代替案:
  • 推奨案:
  • 希望期限:
  • 承認結果(承認/却下/保留):

9-3. ステコミ用 1枚サマリ(例)

  • 今日決めたいこと:○○をA案で進めてよいか
  • 重要背景:
  • 選択肢比較(表):
  • 推奨案と理由:
  • 追加で必要な支援:予算/人員/他部門調整
  • 決めない場合の影響:

まとめ

ステコミ/CCB/定例の役割分担が曖昧だと、会議は増えるのに意思決定が進まず、変更が雪だるま式に膨らんでプロジェクトが苦しくなります。立て直しのポイントは、「何をどこで決めるか」「誰が決めるか(Aを1人に固定)」を先に決めることです。
ステコミは方針と経営判断、CCBは変更の採否、定例は実務の前進。さらに議題のタグ付け、決裁1枚サマリ、変更票、緊急ルートの整備まで揃えると、会議体は“増やすもの”から“軽くする仕組み”に変わります。