【目次】
・なぜ「開発リーダー → PM」は難しいのか
・壁① 自分で手を動かしたくなる問題
・壁② メンバー視点からステークホルダー視点への転換
・壁③ スケジュールとリソースの見通しが甘くなる問題
・壁④ 育成・評価・フィードバック
・壁⑤ 責任の重さとメンタル負荷への向き合い方
・開発リーダーからPMへ成長するためのステップ
・まとめ
なぜ「開発リーダー → PM」は難しいのか
開発リーダーを任される人は、多くの場合「技術的に優秀で、現場でも信頼されている人」です。
一方で、PM(プロジェクトマネージャー)は「技術のわかる人」というより、「プロジェクトの成果に責任を持つ人」です。
つまり、
- 開発リーダー:チームが良い成果を出すために、自分も一緒に手を動かす人
- PM:期限・コスト・品質を守りながら、関係者を巻き込んで成果を出させる人
という役割の違いがあります。
この役割の変化が十分に理解されないまま「今度からPMね」と任命されると、
- 自分で手を動かしたくなる
- メンバーと同じ目線から抜け出せない
- 顧客や上層部との調整に戸惑う
- 責任の重さに押しつぶされそうになる
といった“壁”にぶつかります。
この記事では、開発リーダーからPMになるときに多くの人が直面する「5つの壁」と、その乗り越え方を整理していきます。
壁① 自分で手を動かしたくなる問題
「自分でやった方が早い」の罠
開発リーダー時代に評価された人ほど、次のような考えに陥りがちです。
- 「その実装は自分がやった方が早い」
- 「レビューしている時間があれば、私が書いた方が品質も高い」
しかしPMになった瞬間、あなたの仕事は「自分が速く・うまく作ること」ではなく、「チーム全体のアウトプットを最大化すること」に変わります。
自分がキーメンバーとしてコードを書き続けると、
- スケジュール管理やリスク管理に手が回らない
- チームのボトルネックが見えなくなる
- PM不在状態になり、問題発見が遅れる
という状況になりやすくなります。
「やらない勇気」を持つための考え方
PMとしては、あえて自分が手を動かさないことが重要です。
そのために意識したいのは、次のような優先順位です。
- 進捗・リスク・課題の全体把握
- ステークホルダーへの説明と調整
- メンバーの支援・障害除去
- それでも余力があれば、ポイントを絞って自分も手を動かす
特に、トラブルの兆候を早めに察知し、関係者と打ち手を検討するのはPMにしかできない仕事です。
「自分が実装した量」ではなく、「チームの成果を最大化するために、どれだけ環境を整えられたか」を自分の評価軸に変えていきましょう。
壁② メンバー視点からステークホルダー視点への転換
PMは「現場代表」ではなく「全体のバランス調整役」
開発リーダーは、主に「チームメンバー側の代表」として振る舞うことが多くなります。
- 「このスケジュールでは品質が守れない」
- 「この仕様変更は現場に負担が大きすぎる」
といった現場の声を代弁する役割です。
一方、PMになると、
- 顧客
- 自社の上層部
- 他部署(営業・運用・インフラ・購買 など)
- 開発チーム
といった複数のステークホルダーの利害を調整する立場になります。
「現場の味方」だけを続けていると、他のステークホルダーとの信頼関係が築けません。
「誰のためのプロジェクトか」を常に意識する
ステークホルダー視点に切り替えるためには、次のような問いを自分に投げかけると有効です。
- このプロジェクトの最終的な成功は、誰にとってどんな価値があるのか?
- そのために、今どのステークホルダーの期待や不安に向き合うべきか?
- 現場の主張をそのまま伝えるのではなく「全体最適」の観点で整理できているか?
PMとしては、現場の気持ちを理解したうえで、
「現場の懸念を踏まえつつ、全体としてこういう着地点なら可能です」
といった落としどころを提案できる存在になることが求められます。
壁③ スケジュールとリソースの見通しが甘くなる問題
「経験値だけの見積もり」から脱却する
開発リーダー時代には、
- 「このくらいの規模なら、だいたい3カ月」
- 「このメンバーなら、1機能あたり2週間くらい」
といった、経験ベースの感覚でスケジュールを決めていたかもしれません。
PMになると、その見積もりが
- 契約
- コスト
- 他プロジェクトとのリソース調整
- 経営判断
に直結します。
「感覚だけの見積もり」は、組織全体を巻き込んだリスクになってしまいます。
不確実性を前提にした計画づくり
PMとして乗り越えるべきポイントは、「不確実性を計画に織り込むこと」です。例えば、
- バッファ(余裕)の設定
- クリティカルな工程の見極め
- リスクの洗い出しと事前対策
- マイルストーンごとの見直しポイント設定
といった要素を、計画段階から意識する必要があります。
また、計画は一度立てて終わりではなく、
- 状況の変化に応じて計画を更新する
- 更新の理由を、関係者にわかりやすく説明する
こともPMの重要な役割です。
壁④ 育成・評価・フィードバック
「自分と同じレベル」を無意識に求めてしまう
技術的に優秀な開発リーダーほど、次のような思いを抱きがちです。
- 「なぜ、この程度のことができないのか」
- 「自分ならこうするのに、なぜ気づかないのか」
しかしPMの仕事は、「自分と同じレベルの人だけでチームを作る」ことではありません。
さまざまなレベルのメンバーを組み合わせて、プロジェクトを成功させることです。
行動ベースで期待を伝える
PMとしてメンバーに接するときは、「抽象的な叱責」ではなく「具体的な行動レベル」で期待を伝えることが大切です。
- NG例:「もっとちゃんとやってください」「意識を高めてください」
- OK例:「レビュー依頼の前に、自分でチェックリストを使ってセルフチェックしてください」
「期限に間に合わないときは、○日前までに必ず相談してください」
行動レベルで期待を伝えることで、
- メンバーが「何を変えればよいか」を理解しやすくなる
- PM自身も「指導した内容」を説明しやすくなる
- 感情論ではなく、事実ベースのコミュニケーションにできる
といったメリットがあります。
育成を「投資」として捉える
短期的には「自分でやった方が早い」と感じても、
- メンバーに任せる
- 失敗してもフォローする
- 振り返りを一緒に行う
というプロセスを重ねていくことで、チームの総合力が上がっていきます。
PMにとって育成は、「余裕があればやること」ではなく、「プロジェクトの将来を守るための投資」です。
壁⑤ 責任の重さとメンタル負荷への向き合い方
「全部自分の責任」と抱え込みすぎない
PMになった瞬間、多くの人が感じるのは「失敗したら自分の責任だ」というプレッシャーです。
この意識自体は大切ですが、行き過ぎると、
- 問題を一人で抱え込んでしまう
- 相談やヘルプを出せなくなる
- メンタル的に追い詰められる
といった状態に陥ります。
PMの責任とは、「すべてを自分で解決すること」ではなく、
- 問題を早期に発見し
- 関係者を巻き込み
- 解決に向けた打ち手を提案・実行する
ところまでをやり切ることです。
「相談できる相手」をあらかじめ確保しておく
プレッシャーに押しつぶされないためには、平常時から次のようなネットワークを作っておくのが有効です。
- 組織内の先輩PM・上司
- 他プロジェクトのPM仲間
- 信頼できる技術リーダーや現場リーダー
「一人で抱えない」ための習慣として、
- 週次で上司や先輩PMと短時間の相談枠を持つ
- 定期的にプロジェクトの課題や悩みを共有する場を作る
といった工夫も有効です。
開発リーダーからPMへ成長するためのステップ
まずは「役割の違い」を言語化してみる
最初の一歩として、次のようなことを自分の言葉で書き出してみると、頭の整理になります。
- 「開発リーダーとしての自分の役割」
- 「PMとして求められている役割」
- 「その差分として、これから身につけるべきこと」
紙やメモに書き出すことで、「何となく不安」だったものが具体的なテーマに変わり、学びやすくなります。
小さな範囲から「PMらしい振る舞い」を試してみる
いきなりすべてを完璧にこなす必要はありません。例えば、
- 次の小さな機能開発だけは、「自分は手を動かさず、進行と調整に専念してみる」
- 次回の定例会議では、「現場の声を伝える」だけでなく、「ステークホルダー全体の整理と提案」を意識して話してみる
- メンバーへの依頼内容を、「行動レベルで具体的に」伝えてみる
といった小さな「PM行動」を増やしていくイメージです。
書籍・研修・先輩PMから「型」を学ぶ
PMの仕事には、ある程度の「型」が存在します。
- WBS、ガントチャート、リスク一覧などの計画・管理の型
- 会議体や報告フォーマットの型
- 課題の整理・打ち手の検討の型
書籍・研修・社内の先輩PMから、「自分が真似できそうな型」を少しずつ取り入れていくことで、独りよがりではないマネジメントができるようになります。
まとめ
開発リーダーからPMになるとき、多くの人が次のような壁に直面します。
- 自分で手を動かしたい気持ちから抜け出せない
- メンバー視点からステークホルダー視点への転換に戸惑う
- スケジュールとリソースの不確実性を見きれない
- 人の育成・評価・フィードバックに悩む
- 責任の重さとメンタル負荷に押しつぶされそうになる
これらの壁は、決して「自分だけの問題」ではなく、多くの開発リーダーが通る道です。
重要なのは、壁の正体を言語化し、一つひとつ「どう乗り越えるか」を考えながら行動を変えていくことです。
- 役割の変化を理解する
- 全体最適の視点を持つ
- 計画とリスク管理の型を身につける
- メンバー育成を投資と捉える
- 一人で抱え込まず、相談できる関係を作る
こうした取り組みを続けていくことで、開発リーダーとしての強みを活かしつつ、PMとして一段上の視座でプロジェクトをリードできるようになっていきます。
あなたが今感じている戸惑いや不安は、PMとして成長していくための「入り口」です。
一つずつ壁を越えながら、チームとプロジェクトの未来をつくるPMへと成長していきましょう。

